大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和25年(う)419号 判決

被告人

木村隆

主文

原判決中被告人に対する部分を破棄する。

被告人を懲役十月に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

前略、第一点。論旨は要するに、起訴状記載の窃盗したと称する物件中一部の物件を検察官が除外すると、起訴状中一部の訴因の訂正を申立て、被告人及び、弁護人も異議なかりしに拘らず、原判決は右訂正前の起訴状記載の公訴事実を引用しておるから、所謂不告不理の原則に反し刑事訴訟法第三百七十八条第三号に所謂、審判請求を受けない事件について判決を為したものであるから、破棄を免れないというにある。よつて、記録並びに原審が取調べた証拠に現はれたる事実を調査するに、原審第一回公判調書には検察官は、昭和二十四年十一月十七日附起訴状及、昭和二十四年十二月一日附起訴状を各朗読したる上、昭和二十四年十一月十七日附、起訴状訴因、「純毛黒ズボン一点外衣類三十九点此価格四万三千七百円」とあるを「ネズミ色合オーバー一点外衣類三十八点此の価格四万一千四百円」に訂正し、朗読した旨記載があり、被害物件中、冐頭掲記のものが削除せられておること、(追起訴状は被告人に関係ないからその部分の訂正引用は省略する)所論の通りである。而して、右起訴状自体には何等の訂正もされていないし、原判決亦これを引用するに、ただ単に、起訴状及び、追起訴状に記載された公訴事実を引用すると記載するのみであるから、前掲公判調書と併せこれを検討しない限り、起訴状中の前掲削除物件は当然これを含むものと一般に認められること当然である。しかし、判決中罪となるべき事実は、判決書自体により過不足なく、これを知りうることを要するは判決に要求せられる正確性の上から当然のことである。起訴状を引用する場合、亦この理を異にするものではない。従つて、起訴状を引用する場合若し起訴状自体に必要な訂正変更が記載せられておらない限り、訂正変更せられた犯罪事実を判決書に記載するか、少くとも訂正ケ所ある旨を附記すべきものと認むるを相当とする。然るに事ここに出でず漫然所論のような削除せられた物件を冐頭に掲げたままの起訴状を引用した原判決は、削除の事実を意識せざりしものと認むる外ないから、事実誤認又は、理由にくいちがいあることとなり畢竟破棄を免れないものである。故に所論は結局理由あるものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例